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脂肪肝、放っていませんか?

[2023.05.21]

春は健診の季節ですが、皆さん健診を受けられましたか?

健診を受けた方は結果を手元に用意して、このブログを読み進めていただければと思います。

腹部エコーで「脂肪肝」と言われていませんか?

健診でエコーは受けていないけど、肝臓の数値が高かった人いらっしゃいますか?脂肪肝の可能性がありますよ!!

肝機能検査結果の読み方

健診の結果の「肝機能」の項目には色々なものがありますよね。

GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP(γ-GT)、ALP、LDH(LD)、総ビリルビン、ChE・・・たくさんありますね。その他にも、PTやアンモニア、血小板数、アルブミンなども肝臓を評価する上では重要な数値となります。人間ドックやしっかりと検査をしてくれる健診では、HBs抗原やHCV抗体と言ったものも測定されているかと思います。

では、具体的に結果を見ていきましょう。

「ASTとALT」

肝臓専門医が結果を見る時には、まずASTとALT に注目します。

ASTとALT、似たような名前ですが、肝臓で重要視されるのがALTです。ALTは肝臓特異的な(肝臓の細胞だけにある)酵素であり、ALTが上昇していると肝臓の病気の可能性が高いと判断します。

ALTと一文字違いですが、ASTは肝臓以外でも上昇することがあります。ASTは筋肉や赤血球など肝臓以外の組織にも多く存在する酵素であり、筋トレをした翌日の筋肉痛の時やマッサージを受けた後、コケて体を打撲した後などに検査をすると、筋肉由来のASTがかなり上がっています。その時はCK(CPK)やLDHも一緒に上がっています。

採血をするときに注射器を強く引きすぎて、赤血球が壊れる(溶血と言います)だけでもASTは上昇します。つまりは、

「ASTだけが上がっていて、ALTが全く上がっていないときは肝臓以外の病気を疑います。」

若い男性で、がっちりした体つきの人が、「健診で肝機能異常(AST上昇だけ)を言われました~」とやってきたときは、筋トレの習慣や検査前の運動などについて確認します。その他、高齢者が調子が悪いとやってきて、ASTだけが上がっているときは心筋梗塞(心臓の筋肉が壊れる)などの可能性も考えます。

ASTとALTが両方とも上昇している場合は、やはり肝臓の病気を疑います。肝臓の病気は色々ありますが、圧倒的に多いのは脂肪肝ではないかと思います。最近は少なくなりましたが、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎の可能性も考えます。健診でHBs抗原やHCV抗体が陰性であれば、B型肝炎やC型肝炎の可能性はないと考えますが、実際そこまで検査している健診は少ないようです。若い人ではEBウイルスというウイルスの感染の場合もあります。その他にも、薬やサプリメント・健康食品による肝障害(薬物性肝障害)、免疫の異常による自己免疫性肝炎なども時々遭遇する病気であり、血液検査や画像検査などで病気の鑑別を行っていきます。

「ASTやALTが3桁以上の場合は、急性肝炎の可能性もあります」

ASTやALTが200とか300まで上昇すると、急性肝炎が疑われるので、場合によっては緊急で総合病院への受診をお勧めすることもあります。ASTやALTが3桁以上になるような急性肝炎の場合、嘔気や強い倦怠感が出てくる人も多いようです。急性肝炎は、劇症肝炎に移行することもあり、命にかかわることもあるため注意が必要な状態です。

 

「総ビリルビン」

肝臓に異常がないのによくひっかかるのが、総ビリルビン(間接ビリルビン)の上昇です。

ビリルビンとは黄疸の原因となるものです。赤血球の中には酸素を運ぶヘモグロビンというタンパク質がありますが、古くなり役目の終わった赤血球のヘモグロビンが肝臓で代謝されてできるのがビリルビンです。ヘモグロビンを材料に、まず間接ビリルビンというものが作られます。その後に、水に溶けやすい直接ビリルビンというものに作り替えられ、胆汁中に排泄され、便中に排出されます。胆汁の流れが悪くなると、血液中のビリルビンが上昇します。ビリルビンの濃度が高くなると、皮膚や白目の部分が黄色くなり、黄疸と言われます。

では、また健診結果をご覧ください。

「ビリルビンの数値だけが基準値を超えている人、体質性黄疸の可能性があります。」

体質性黄疸という言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが、遺伝的にビリルビンの代謝の悪い人が存在します。遺伝性のビリルビン上昇を体質性黄疸といい、いくつかの種類があります。最も多いのが、間接ビリルビンが上昇するGilbert(ジルベール)症候群です。運動や絶食、ストレスなどでビリルビンが上昇すると言われています。健診の時、みなさんは絶食で行きますよね。絶食だけでビリルビンが上昇することがあります。このGilbert症候群ですが、人口の3-10%程度にあると言われており、意外と多いんです。ビリルビン上昇だけであればあまり心配いりません。

 

「γ-GTP、ALP」

皆さんに一番なじみがあるの肝機能検査は、γ-GTPでしょうか。お酒の飲みすぎでγ-GTPが上がっている人、結構多いですよね。50ぐらいならちょっと高め、100を越すと高いなぁと思いますが、中には1000以上を叩き出す強者もいます。1000を超えているけど、けろっとしている人は大体がアルコールが原因です。大量の飲酒をすると肝臓の細胞内でγ-GTPが沢山作られ、γ-GTPがたくさん含まれる細胞が壊れることで多量のγ-GTPが血液中に漏れ出て、高い数値になります。

「γ-GTPが上がっている人は、アルコールや脂肪肝が原因。生活習慣を見直しましょう。」

γ-GTPの上昇は脂肪肝などでもよく見られます。少し難しいですが、γ-GTPは酸化ストレスに対応するために上昇していると考えられています。肝臓内で発生した活性酸素などの除去の役割をしています。活性酸素が溜まると肝臓の細胞がダメージを受けてしますので、少しでもダメージを減らそうとしている状態です。ASTやALTが上がっていないのにγ-GTPが少し上がっている人は、脂肪肝の初期のことがあります。

「γ-GTP・ALPの上昇+腹痛 = 胆石や胆嚢炎や胆管炎の可能性があります」

アルコールや脂肪肝で上がりやすいγ-GTPですが、胆道系酵素と呼ばれ、胆管の障害でも上昇します。胆管炎や胆嚢炎などで上昇することがあるので、注意が必要です。ALPも胆道系酵素であり、胆管が障害されるとγ-GTPとALPの両方が上がることが多いです。お腹の痛みや熱があって、ビリルビン・γ-GTP・ALPなどが上がっていると、胆管に石があるのではないかと疑う必要があります。

その他、原発性胆汁性胆管炎(PBC)や原発性硬化性胆管炎(PSC)という難病でもγ-GTPやALPが上がることがあります。

ALPはその他、骨や小腸にも存在し、骨の病気や骨の成長が盛んな子供でも高くなることがありますが、骨の病気の場合はγ-GTPはあがりません。

「PT、アンモニア、アルブミン」

PT (プロトロンビン時間)やアンモニア(NH3)、アルブミン(Alb)といった検査も肝臓の状態を知るのには重要な検査です。PTは止血機能の検査なのですが、血液中の凝固因子という肝臓で合成されるタンパク質の量を反映しています。アルブミンというものも肝臓で合成されるタンパク質です。PTやアルブミンは肝臓でどの程度タンパク質が合成できているかを見る検査であり、PTやアルブミンが低くなっていると肝硬変の可能性があります。肝硬変が進行すると、アンモニアも高くなり、肝性脳症を発症することがあります。肝硬変の重症度の指標にChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類というものがありますが、肝性脳症・腹水・ビリルビン・PT・アルブミンの5項目で評価をします。

「血小板数」

肝臓の状態を知るのに血小板の数が重要です。肝臓と血小板が関係あるの?!と驚かれる方もいるかもしれませんが、肝臓が悪くなり、肝臓の線維化が進む(肝硬変になっていく)と血小板数が少なくなってくるのです。血小板が15万を切ると肝臓の線維化が始まっているかもしれません。血小板が10万を切っている人は肝硬変の可能性が極めて高いのです。

脂肪肝の可能性がある人

AST・ALT・γ-GTPが上がっている人は脂肪肝の可能性があります。脂肪肝ではASTよりALTの上昇が目立ちます。

アルコールは脂肪肝の原因になります。しかし、アルコールを飲まない人もアルコール性脂肪肝と同じような状態になることがあります。

その状態を非アルコール性脂肪性肝疾患「NAFLD(ナッフルドまたはナッフルディー)」と言います。アルコールを沢山飲む人と同じように、脂肪肝から肝炎・肝硬変、最悪の場合、肝臓がんへと進行する可能性のある病気です。

では、アルコール性と非アルコール性の境界線は、どこなのでしょうか?

男性は1日の純エタノール量が30g、女性の場合は20gが境界線とされています。そのアルコール量を越えると肝障害が出やすいことが知られています。エタノール30gはビールで750ml、日本酒1.5合、ワインでは270ml、焼酎0.9合、ウイスキーではダブル1.5杯(90ml)に相当します。

男性ではエタノール30g、女性ではエタノール20gを越えている人の肝機能異常では、まずはアルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎を考えます。その場合は、アルコール量を減らしていただき、再検査をおすすめしています。

飲酒をしない方で、体重が増えるとともに肝機能の数値が上昇している場合は、NAFLDが疑われます。

日本ではNAFLDの患者さんは2001年18%とされていましたが、2009年-2010年の調査では29.7%と報告されており、近年増加中の病気です。肥満の中年男性や高齢女性に多くなっています。

NAFLDは太っている人に多いのですが、痩せている人でも脂肪肝が進んでいる場合があります。健診のデータでは、BMI25以下の肥満のない人でも15%程度は脂肪肝だったといわれています。(BMIとは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算できる肥満度の指標です。)痩せている人のNAFLDには、遺伝的な要因も指摘されていますが、食生活の乱れなども原因となっています。

 

脂肪肝の原因

脂肪肝とは肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態を言います。肝臓の細胞の5%以上に脂肪が蓄積すると脂肪肝と診断されます。

では、どうして肝臓に脂肪が蓄積するのでしょうか?

まずは、食事の影響を見てみます。肝臓は、小腸からの栄養を豊富に含んだ血液が通る門脈という血管から栄養をもらっています。脂質(特に飽和脂肪酸やコレステロール)の多い食事や暴飲暴食をすると、小腸でその栄養は吸収され、肝臓に糖や脂肪(遊離脂肪酸)を多量に含んだ血液が入ってきます。すると、肝臓での中性脂肪の合成が増え、脂肪肝になるのです。痩せている人でも食生活に気をつけないと脂肪肝になってしまいます。

次に、肥満や糖尿病との関連を見ていきます。肥満や糖尿病の人に脂肪肝が多いのですが、それにはインスリンの働き方が関連しています。肥満や糖尿病(特に2型糖尿病)の人はインスリン抵抗性という状態になっていることが多いのです。インスリン抵抗性とはインスリンが作用しにくい状態のことを言います。つまり、肥満や糖尿病の人の多くは、血液中の糖を下げるインスリンというホルモンが血液中に過剰に存在するのに、インスリンがほとんど作用しない状態になっているのです。もともとインスリンは体に栄養(脂肪)をため込もうとするホルモンであり、インスリンが作用しなくなると、内臓脂肪などの脂肪細胞からの脂肪酸の分泌を促進します。すると血液中の脂肪の量も増えるため、脂肪肝を引き起こします。インスリン抵抗性を改善させるには、肥満の改善がとても重要です。

 

脂肪肝炎の治療

(日本消化器病学会ガイドライン HPより引用)

①基本は食事・運動療法

肥満のある脂肪肝の患者さんは、まずは食事・運動療法で体重を落とすことが必要です。7%の減量が推奨されていますので、70kgの人で約5kgのダイエットが必要です。5kgの減量をするには、あくまでも計算上ですが45000kcal程度減らす必要があります。3か月で5kg減らすには(そんなに急に減らす必要はないですが)1日500kcalずつ減らしていく必要があります。食事を減らして、摂取カロリーを減らし、運動をして消費するカロリーを減らす必要があります。

500キロカロリーを食事で減らすにはご飯をよく食べる人なら白米で1合程度、お菓子や間食の多い人ならポテトチップス1.5袋、ドーナツ2個分減らすと500kcal減らせます。

運動で500キロカロリーを消費するのは結構大変です。ウォーキングだと2時間以上は歩く必要があります。ジョギングでも60分、水泳でも50分ぐらいクロールで泳ぐ必要があります。さすがにこの運動量を毎日するのはつらい・・・

ということで、食事と運動療法で頑張ってもらうように指導しています。白米を少し減らして、ウォーキングを30分~1時間程度が現実的なところかと思います。

高度肥満(BMI35以上)の人は、減量手術と言って胃を小さく(細く)する手術も保険適応で可能となっています。腹腔鏡下スリーブ状胃切除(保険適応)やスリーブ状胃切除にバイパス術を追加する手術(先進医療)が主流です。その他には、食道から胃を通らずに腸に食べ物が流れていくようなバイパス術もすることがありますが、胃の内視鏡検査ができなくなるので、胃がんの多い日本人には向いていない治療と言われています。高度肥満の方は、手術をすることで20kgや30kgも体重が減る人も多く、かなりの減量が期待できますが、長期的にはリバウンドにも注意が必要であり、食事運動療法の併用がやはり重要です。

②ビタミンE

抗酸化作用のあるビタミンEは、肝酵素を下げる効果があることが知られています。

肝臓に脂肪がついていてもASTやALTなどの肝酵素が上昇しない人もいます。炎症を起こすのには脂肪の酸化が関連しているとも言われています。ビタミンEを内服しても、肝臓についた脂肪は減りませんので、根本的な解決にはなりませんが、炎症が改善することで、肝硬変に進展することを防ぐ効果があります。

③糖尿病の治療薬

一部の糖尿病の治療薬も脂肪肝に効果があることが知られています。

ピオグリタゾン(アクトス)という薬剤が肝酵素上昇を改善させることが知られており、糖尿病を合併した脂肪肝炎には使用されてきました。しかし、この薬剤は膀胱がんを増やすという報告がされ、少し使用しづらくなりました。現在は因果関係ははっきりしないとされていますので、選択肢の一つと考えます。

また、糖尿病治療薬でSGLT2阻害薬という尿中に糖分を出す薬も脂肪肝に効果があることが報告されています。まだ十分なデータはありませんが、体重減少効果もあるため、肝臓に沈着した脂肪量が減るとも報告されています。

 

肝硬変や肝臓がんにも注意が必要

肝機能の異常がある人は、肝臓の細胞が徐々に壊れています。肝機能異常が続くと、肝臓は線維化を起こし、肝硬変へと近づいていってしまいます。ウイルス性肝炎では罹患後20-30年程度で肝硬変になると考えられていますが、脂肪肝炎なども同様の経過を取る可能性があり、脂肪肝を放置していると、最悪の場合、肝硬変から肝不全、または肝臓がんなどの致命的な状態になることもあります。

脂肪肝の人(特にNASHの人)は定期的な腹部エコー検査を受けていただくことをおすすめします。C型肝炎の患者さんの肝臓がんは直径2cmぐらいで見つかることが多いのですが、脂肪肝からの発がんでは平均で5cmで発見されます。これは、定期的な検査がされていないことが原因と考えられています。

脂肪肝は放置しないように気をつけましょう

脂肪肝の人は、自己判断で放置をせず、一度は肝臓専門医を受診してください。血液検査や腹部エコーなどで、NASHの可能性があれば、定期的な受診を推奨します。

 

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