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知らない間にピロリ菌を飼っていませんか?

[2022.03.26]

「ピロリ菌」、聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

除菌したよ、という方も最近はかなりいらっしゃるのではないでしょうか。

ピロリ菌、正式名称はHelicobactor pylori(ヘリコバクター・ピロリ)と言います。胃の中に住んでいる細菌です。

ピロリ菌が発見されたのは1979年のことです。胃の中は強酸性のため、菌が住めるはずがないと言われていましたが、胃に細菌がいることを、オーストラリアのウォーレンとマーシャルが発見しました。マーシャルは実際に培養したピロリ菌を飲んでみて、急性胃炎が起こることを証明した勇気のある人物です。細菌を飲むって正気ではないですよね。想像するだけでピロリ菌がいなくても、おなかが痛くなりそうです。ウォーレンとマーシャルは、ピロリ菌を飲んだ甲斐もあってか、見事2005年にノーベル賞を受賞しました。

では、ピロリ菌はどうやって感染するのでしょうか?

ピロリ菌を持っている人のほとんどが、免疫力が不十分な幼少期(3歳ごろまで)に胃の中にピロリ菌が入って住み着いてしまったと考えられています。口からピロリ菌は入ってきます。昔は衛生環境が悪く、ピロリ菌が混ざった井戸水を使用したり、ピロリ菌を持っている母親から口移しで食べ物を与えられたりで、高齢の方では80%以上がピロリ菌の保菌者でした。衛生環境の良くなった現在では若い人でのピロリ菌の陽性率は10%以下とかなり下がっています。また、以前は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんしかピロリ菌の除菌治療が受けられませんでしたが、2013年からは慢性胃炎でもピロリ菌の除菌治療を保険診療で行えるようになったため、年間150万人以上もの人がピロリ除菌を受けています。このペースで行けば、ピロリ菌の撲滅も近い将来に達成されそうです。

なぜピロリ菌が悪者にされているのかというと、ピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍・胃がんの原因となるからです。胃がんになる人のほとんどがピロリ菌陽性であり、ピロリ菌陰性の人からの胃がんはまれです(近年、ピロリ陰性胃癌の割合は増えていますが)。ピロリ菌陽性の人は、10年間で3%程度が発がんするされています。最近の報告では、ピロリ菌陽性の人は85歳までに男性では17%、女性では7.7%に胃がんが発生すると言われています。この報告ではピロリ菌陰性の人では、男性1.0%、女性0.5%に胃がんが発生すると報告されています。つまり、ピロリ菌がいることで発がん率が15倍以上になるのです。男性では、ピロリ菌がいなければ100人のうち1人しか発がんしないのに、ピロリ菌がいることで、なんと6人に1人の確率で胃がんが発生するのです。

世界で見てみると、ピロリ菌の感染者数は世界人口の半数近くと考えられていますが、実は日本では、ピロリ菌陽性者からの胃がんの発生率が欧米に比べると極めて多くなっています。なぜ、日本では発がんが多いのでしょう?

以前は、食塩摂取量が多いから胃がんが多いと言われていましたが、実はピロリ菌の種類に地域差があることが原因になっているのです。

ピロリ菌には東アジア型と欧米型があり、東アジア型のピロリ菌は欧米型のピロリ菌と比べると発がんしやすいことがわかっています。ここからは少し難しい内容になりますが、ピロリ菌が分泌するタンパク質のCagAという物質が発がんに関与することがわかっています。胃の粘膜の細胞にピロリ菌が分泌したCagAが入ると、異常な細胞増殖が起こり、発がんに関与しています。東アジア型と欧米型では、CagAの構造が異なり、東アジア型のほうが、慢性胃炎が進行しやすく、発がん率も高くなっています。

新型コロナのデルタ株とオミクロン株で、感染のしやすさや重症化率が違うように、ピロリ菌も変異が加わることで、人に与える影響が大きく変わってきます。

日本人に胃癌が多いのは、発がん率の高い東アジア型のピロリ菌の保菌者が多いためです。ちなみに、日本国内でも沖縄は欧米型のピロリ菌が多いため、他の地域と比較して胃がんの患者さんが少ないようです。

 

そんな怖いピロリ菌ですが、症状からはピロリ菌がいるかどうかはわかりません。ピロリ菌をもっている人のほとんどが無症状なので、検査が非常に重要です。自分がピロリ菌を持っているのかどうか知らない方、検査を急いだほうがいいかもしれません。当院で、内視鏡検査を始めてからまだ1年足らずですが、「怖いからこれまで胃カメラを受けたことがない」とか「前に受けてしんどかったから10年ぐらい受けていない」といった患者さんに思いきって内視鏡検査を受けていただくと、思っていた以上に胃がんがある人が多いことにびっくりしています。勤務医時代より内視鏡検査の件数は減っていますが、がんの発見数は明らかに増えています。

胃カメラを一度受けていただくだけで、胃粘膜の萎縮の有無から、ピロリ菌がいるかいないか、発がんしやすい胃かどうかが判断できます。内視鏡所見だけでもピロリ菌の有無は、おおよその検討がつきますが、追加でピロリ菌の検査(抗体検査や抗原検査、迅速検査など)を行うことでも、ピロリ菌がいるかどうかを確認しています。ピロリ菌が陽性であれば、内服薬で除菌をすることで発がんリスクが3分の1に減らせます。

胃がんにならないためにも、ご自身がピロリ菌を飼っているのかどうか確かめていただければと思います。特にご家族に胃がんの人がいたり、親・兄弟がピロリ菌がいた人は、ピロリ菌を持っている可能性がありますので、検査をおすすめします。ピロリ菌は口移しでうつるため、母親から子供にうつることが多いので、私はいつもピロリ菌が陽性の患者さんには「お母さんやご兄弟、お子さんにも検査をおすすめしてください」とお話しています。

以前にもブログで書きましたが、胃カメラは皆さまが思っているようなしんどい検査ではありません。当院で検査を受けた方は皆さん「思っていたより楽だった。こんなんだったらもっと早く受けとけばよかった」と仰います。「もう二度と受けない」と言った患者さんは今のところ誰もいません。胃カメラはがんの早期発見・早期治療だけでなく、発がんの予防にも繋げられるので、何も症状がなくても受けていただく方が良い検査だと思います。

長文になってきましたので、具体的なピロリ菌の検査や治療については、また今度ご説明したいと思います。

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